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NOVELS

合同誌 UNDER MY SKIN 掲載
​「囁いた声は月のもとまで」
​2016年執筆

 本文 冒頭 チラ読み

 望美✳︎出逢

 私とその恋人、朱莉は約束を交わしたカップルを待っていた。

「遅いねえ」と朱莉が呟く。

「連絡は取れてるの?」と私が言うと、朱莉は携帯電話を見る。

「うん、一応。ひろくん、場所、間違えてないよね?」

「ここを間違うって、どこと?」

「海の方に行っちゃった、とか?」

 そう、私たちは、ディズニーランドに来ているのだ。ダブルデートというやつ。

 朱莉はとても社交的で、よく飲みに行く。その場所で出会った男の子と、ダブルデートの約束をした、と笑顔で話された時、私は本当にびっくりした…  and more

オリジナル作品 「愛してくれて」
​2005年執筆

長い冬があける。
小さな芽が地面を押し上げて、空に恋をする。

『愛してくれて』

広い肩、骨ばった手、少し癖のある髪。
私の目の前で笑う男の子は、今の私の彼氏。
「瑠衣?」
じっと見つめられて不審に思ったのか、彼は私に問いかけた。
「なんでもないよ、大志」
嘘をついた。
彼の姿を見ながら、彼には似ても似つかない私の前の彼氏、咲を思い出していたのは言わないでおく。
どうせ咲はもういないのだけど…。

咲とのデートはいつも室内だった。
咲は体が弱かったから。
女の私よりも白い肌、細い体…さらさらとした茶色の髪。
女の子に間違えられることも少なくなかった。
「ねぇ、瑠衣。たまには外に遊びに行く?」
私がデート中、ぼーっと外を見つめていたら咲が言った。
「ううん。咲と一緒にいれれば私はいいから」
私は笑顔を作った。
咲は悲しそうに目を伏せてから、口づけをくれた。
吐息交じりの『ごめんね』が私の耳に響く。
…少し切ないキスだった。

「瑠衣…今から墓参りに行くぞ」
大志はそういうと私の手を引っ張って歩き始めた。
私はただ引かれるままに進むだけ。
お墓に行って、大志はなにをするつもりなんだろう。
途中、お花と線香を買って墓地に着いた。
「もう咲が死んで一年経つんだぜ?」
私はその場にしゃがみこんだ。
知ってる、知ってた。
わかってる、わかってた。
咲は死んだ。
風邪をこじらせて、あっけなく。
肺炎になって逝ってしまった。

咲が私を呼んでいる、と咲の母親から電話をもらい、私は病院へ急いだ。
咲の病室に着いて最初に目に入ったのは咲の白い体にたくさんの管がついている光景だった。
「…咲?」
私が声をかけると咲は呼吸を乱しながら私の名前を呼んだ。
私は咲の手を強く握った。
「瑠衣…ずっと愛してる」
初めて聞いた咲の力強い声に涙が溢れた。
「でも守ってあげられない…ごめん」
咲も涙を流していた。
私は涙でぬれた咲の頬にキスをした。
「咲…愛してるよ」
私がそう言うと咲はニコリと笑って…そのまま死んでしまった。
まるで眠るように自然に逝ってしまった。

「咲、俺が瑠衣を守るから」
大志がお墓の前で私の肩を抱く。
大志は咲の親友だった。
そして咲と正反対の男の子。
きっと彼なら私を置いて逝くことはないと思う。


それでも咲を愛してる。

それでも大志を愛してる。

そして二人は私を愛してくれた。

「咲、大志…ありがとう」

空に花びらが舞う。
空に恋した花が飛び回っていた。

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